スマトラ島リントン地区グランブルーの品種
2021年 11月 03日
前回の投稿でもお伝えしたように私はインドネシアのコーヒーが苦手だった
アーシー(土のような)バタリー(バターのような)重くて濁った感じ
モノによっては発酵して臭みさえ感じる、赤茶けてひしゃげた生豆もあり
その異臭をごまかすかのような深いフレンチローストがベストだとか…
この原因の半分はスマトラ式と呼ばれる高温多湿で雨量の多い島国で広まった
柔らかな生豆をそのまま脱殻して乾燥する独自の精製方法にも関わらず
丁寧に良い仕事をして良いコーヒーを作れば高く売れるという価値観自体が
生産者や仲介のプロデューサー達の中で殆どなく
どうせ買い叩かれるなら出来るだけ早く量をさばくことで収益を確保したいと
考える習慣が広がりインドネシアコーヒー生豆の品質を落としてきた
その意識を根底から覆すために良いコーヒーは高く買うと言う
一見普通の事、頑張った人が報われる仕事の価値観を現地の生産者や労働者に
伝え広め続けたのがゼファー橋本氏と、若きパートナープロデューサーカルドン氏
2人の最も大きな成果だと私は考える
しかし、この作業工程の改革で得られるグランブルーの品質全てではない
いくら精製工程の作業を改善しても原料であるコーヒーチェリーの持味
つまりこの地域に合ったベストの品種をマッチングさせること
最終的には単一農園単一品種のシングルオリジン化に向けた取り組みである
残念ながら今のインドネシアのスマトラ島で生産されるコーヒーの殆どが
ティピカ系とかティピカ亜種などの表記でまかり通っているが
実際はロブスタの交配種、つまり収量向上や病害虫対策を目的として
普及したがカップの濁りや風味に欠けるハイブリット系の品種である
純粋なアラビカ種の爽やかな酸味と甘み、そしてクリーンなカップと
スマトラの気候風土が醸し出す独特のハーブ感や爽やかな苦みを併せ持つ
本当に美味しいスマトラコーヒーを作りたい
そんな想いを共有した橋本氏とカルドン氏が着目したのが
Onan Gajan(オナンガジャン)赤品種
Liberica×Arabica系品種、S795種とBourbon種とのアラビカ交配種とみられている
1980年代後半に北スマトラフンムバン・ハンスドゥタン県
オナンガンジャン村で発見されたクラシック・スマトラ種
クラシック・スマトラとは
1876年スマトラでサビ病が発生し 壊滅的被害をもたらした
その影響からロブスタやハイブリッド品種への植替えが進んだことで
当時はスマトラのティピカ品種は絶滅したと言われていた
しかしその後スマトラ島の奥地のトバ湖周辺で極少量の
ティピカ系品種の生き残りが発見され細々と種をつないで来た
オナンガジャンはこのティピカ系とは別のアラビカ×リベリカ系という変わり種だが
カネフォラ種(ロブスタ)の交配は無いことからクラシックスマトラの1つと言われている
樹勢は強く高く主軸は太くて葉が多く生える、新芽は鮮やかなグリーン色
インドネシアの主力品種はアテン種、シガラール・ウータン種、ラスナ種、等は
全てカネフォラ種ロブスタとの交配種
ティムティム/ティモール・ティムール種に至ってはそのまま100%東ティモール
世界中の多くのハイブリット種の元でとなったハイブリットティモール種そのもの
稀にジェンバー種、ウスダ種、ジャバ種、などスマトラティピカも存在はするのだが
収量が少ない、病害虫に弱い、栽培管理が難しい等々の理由で殆ど普及していない
プロデューサーのカルドン氏はこの希少なオナンガジャンを育苗し
実際に栽培する現地の小規模農家に配布し続け
その木に赤いリボンを付けてプレミアムな価格で買い取る取組を地道に続けて来た
それでも100%のオナンガジャンだけしか買わないのでは
生産者達の心は掴めるわけもないので同時に従来から植えている他品種も買って
徐々にオナンガジャンへの植え替えを8年がかりで進めてきたと言う
日本でも100%オナンガジャンのロットを買付けるバイヤーは1人だけいるのだが
それでは生産できる量も限られ、ごく僅かな限定品としてのブランディングとなり
本当の意味でのサスティナブルな生産者との長期的な関係の構築とはならない
私は昨年のトライアルロット16袋をカッピングしてグランブルーの品質を確信し
現状の品種を確認したところ2020秋ロットのオナンガジャンの比率は約80%
この生豆の状態なら100%のモノと大きな遜色も無く十分に満足頂けると思い
2021春ロット50袋のオファーを入れ、次の秋ロットは倍の100袋を目指して
仲間のロースター様達にお勧めしている
このことで現地の生産者達のモチベーションが上がり単一品種化への流れが
進み続けることで数年後には必ず安定したシングルオリジンとして買取ることが
可能になると信じて我が子を育てる感覚で大事に伝え広めたいと思っている
このブログを目にした1人でも多くのロースター様が
この物語に参戦して本当の意味でのサステイナブルコーヒーの世界と
素晴らしい味と香りをご一緒に消費者に届けて頂きたいと切に願います